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鏡に映るわたしの姿はたいてい陰鬱だ。髪がだらだらと長くのびきって、自分でもいやになる容姿だった。いつもはそうして、鏡から目を逸らして終わりだった。しかし今日は、なんとなく。なんとなくであるが、髪を切ろうか、と考えた。
なにかきっかけがあったというわけでも、前むきな性格になったというわけでもない。——たしかに、変化は、していたが。
そろそろ暑くなる時期だね。
夏至を過ぎた六月の終わり、水遊びをする園児を眺めながら、隣に座るゴンがつぶやいた。保育士にかぶせられた麦わら帽子が二つ、そよ風に揺れる。少しヒヤリとしたむき出しの二の腕を撫でて、わたしはくちを開いた。
「夏至をすぎたって、こっちはなかなか暑くもならないけどね」
「うん」
長く暮らすこの地は、夏と冬しかないような気候だった。といっても、夏の暑さはさほどではない。つまり涼やかが基本の地だった。
「そっか、七月……」
噛むようにつぶやく。もう幾度か寝て覚めれば、七月。うしろでまとめた髪が重い。
切ろうかなあ、とため息をつくと、ゴンがこちらに眼をむけて瞬いた。(麦わら帽子がよく似合ってる。ちょっと、農家みたいだけど)
「、髪?」
「うん」
ゴンは広場に眼を戻す。子どもたちの賑やかさはやまない。膝に積んだバスタオルはまだ、必要ないようだ。
「……あやこちゃんは」
再び二つの目がこちらを見た。
「短いの、すごく似合うと思うよ」
きゅっと細められる目と持ちあがる口角は、ゴンのいつもの笑顔だ。わたしは思わず自分の冷たい腕を握った。
「……そう?」
「うん」
ゴンはやけに自信のある瞳をしていた。のどがつかえる。もう答えが決まってしまった。
(七月になったら、切ろう)
髪を切ったら、鬱陶しいわたしと別れられるだろうか。……もう少し、臆さずに、話せるだろうか。
「あのさ、」
今のわたしはどんな顔をしているのだろう。ゴンはこちらを振りむいて首をかしげる。
「ゴンの家、行ってみたいな」
「……ぼくの家は、ないよ」
え? 声には出なかったが、目線で言っていたのだろう。ゴンは続けた。
「ぼくは。こっち、で生まれて、ないから」
「? 引っ越してきたの」
「今は、おじいちゃんとおばあちゃん、の、家にいるよ」
「……」
よくわからなかった。
よくわからなかったけれど、ゴンに優しい話でないことは、わかった。
「、と、……ご」
「次の次の、日曜日」
突然のゴンの明るい声にわたしは顔をあげた。ゴンは楽しそうに笑っている。
「おいで。むかえに、いくから」
「え、……うん」
うっそりと埋まった、スケジュール帳の七月三日。
夏休みまで二十日と少し。あと何度、ゴンと会えるのだろう。
深く深くにしまいこんだものを取り出す日は、いつ。
実は本文の記録しかなかったため、日付が曖昧です。