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ボランティア委員になったことに、これといった理由はない。聖母マリアや聖人マザー・テレサはおろか、ジョンとヨーコのようにラブ・アンド・ピースを謳っているわけではなかった。にもかかわらず委員の募集に申し込んだのはなぜか。答えはひまだったから。週末に予定をいれたいがために見つけたものがボランティアだった。それだけである。
ボランティア委員の仕事は、地域の幼稚園や保育園、児童養護施設を訪ねることが多かった。職員の手伝いをしたり、子どもたちと遊んだり、養護施設では勉強を教えることもあった。毎週土曜日の午前はすべてボランティアの時間だったのだ。
ボランティア委員となってから一ヶ月半が過ぎた五月の終わり。初めて訪ねる山の上の幼稚園。七度目の、「毎週土曜日の午前」であった。
ゴンとの、出会い。
「——『おまえだ』、『ったのか。いつも、クリをくれた』『のは』」
妙な抑揚の声に振り返ると、おおよそ百八十センチはあるであろう背丈の男が絵本を読んでいた。窮屈そうに組まれたあぐらに女児が二人、腕の下から絵本を覗くようにして寄り添う男児が一人。両手でしっかりと絵本を持つ男の髪は短く刈られた黒色で、ふたえ目蓋の上に生える眉は濃くはないが太かった。要するに野暮ったかったのだ。その姿を眺めながら色紙の鎖を作っていた。彼がただのバカなのか自閉症あたりの性質なのかをぼんやりと、考えながら。
(出会わなければよかった。出会いは幸福だった。残酷な矛盾がひたすらにわたしを責めたてる)
090418