源跳朝はミナモトノハネトモと読む。彼はレンガの石畳が美しい町に生まれた。海沿いの小さな町で、子どもはハネトモのほかに十七人しかいなかった。みな兄弟のように仲が良く、ハネトモは五人の兄姉と四人の同級生、八人の弟妹とともに日々を過ごしていた。
ハネトモの父は火消し、母は洋裁を職にしていた。血のつながる兄弟はいなかったが、十七人の兄弟と大好きな両親と生きて、ハネトモは幸せだった。この町の自分の家の自分の部屋で目を覚まし、学校に行き、遊び、一日のことを両親に話して聞かせ、自分の部屋で眠りにつくというのがあたりまえだった。この町で生きるというのがあたりまえだったのだ。
町が盗賊団に襲われたのはハネトモが十三歳の夏である。
ハネトモはそのとき学校にいた。十七人の兄弟たちとともにたったひとつの教室で二人の教師から授業を受けているときだった。はじめに警報鐘が聞こえて、次に聞き覚えのない声が響きはじめた。そうして教室の扉が乱暴に開けられて軋んだのは、警報鐘から数分後のことだった。強盗団はいわゆる海賊というものたちであった。斬りつけられた教師からパッと血が弾けたのを見て、内臓にずんと岩が落ちた。身じろぎもできないほど身体が硬直していくのがわかった。教師が倒れこんだ勢いで、赤いものが、ハネトモの眼鏡に跳ねた。血だ、と。いやに冷静な精神がつぶやくのが、頭の片隅から聞こえた。兄弟たちの悲鳴も、遠いどこかから聞こえていた。
自分を窓の外に抛ってかばったいちばん上の兄から血が噴きでるのを見て、ハネトモははじめて全力で走りだした。脳から一斉に血がおりていく気がした。心臓はせわしない。走れ走れと思うほど足がもつれそうになって、ハネトモは転がるように自宅に飛びこんだ。
絶望したのは血のにおいがしたからだ。
つづきます