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さきっぽだけ


◆かの女は語る

「自分を今すぐにでも殺して別の誰かと入れ替わりたいと思うのだけれど、入れ替わってしまった時点で誰かは自分になるから意味がないの。生きている限りはなにを嫌悪してなにに焦がれようと自分からは逃げられないのよ。」

◆もりのこ

 両親の実家があるのは山奥の、いかにもと言ったふうの田舎だった。大きな山のふもとはまさに樹海で、けもの道どころかけものの迷路が広がっていた。公園もない田舎であったから、森の浅いところは幼少からの遊び場だった。森の奥に入ると戻れなくなると教え込まれ、涼しい空気が流れてくる暗がりを振り返っては背筋を震わせたことを、よく覚えている。
 部活や受験で両親の里帰りにもつきあわなかったおれがしばらくぶりに舗装されていない砂利道を踏んだのは、十六になった盆だった。
 久しぶりに呼吸をした気がした。コンビニエンスストアもプールも、気の利いたものなどなにひとつないこの田舎が、おれは好きだった。急いた空気が苦手な性格に、ここの生活は相性が良かったのだろう。

◆北はどっちだ

 どうやら北極星が死んでしまった。実際に燃え尽きたのか、それともこの街の空気が澱みに澱んでしまったのかは定かではないが、とにもかくにもこの街から北極星が死んでしまった。



09xxxx
いつに書きかけていたのかもうろ覚え。
たしか2009年だったと思う。
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